村上春樹さんの受け答え集を読んでいたところ、一時期、頻繁にテレビCM等に流れていたYouTubeのプロモーション動画のタイトル「好きなことで、生きていく」と重なる回答を、23年間営業職に従事してきたものの、昨年あえなく解雇となった46歳無職男性の方へ返答していたので、一部抜粋して共有します。
【46歳無職男性の質問】好きなように生きるコツはある?
23年間営業の仕事をしてきました。昨年、解雇になりました。幼い頃より人に気を遣うというか人の目を気にして生きてきました。勝手に疲れてしまい、もう気にせず自分の好きなようにしてやると思うのですが、自分の好きなようにできません。何か、コツのようなものがあるのでしょうか?
僕も非常に質問者の人の気持ちがわかります。勝手に人に気を遣うことで、勝手に疲れてしまうんですよね。もうホント飲み会とか苦手です。そんな人に気を使いすぎてしまう質問者に対しての村上春樹さん回答が、あのYouTuber達と一緒だったのです。
【村上春樹の回答】1.好きなことだけをして人生を生きてきました。
僕はある時点から、なんとなく「好きにやっていく」というパターンに入ってしまって、以来ほとんど好きなことだけをして人生を生きてきました。もちろん逆風を受け、なにかと痛い目にはあってきました。多くの人に疎まれたり嫌われたり、あるときには憎まれ、裏切られたりもしました。
日本が誇る大ベストセラー作家の村上春樹さんですが、その村上春樹さんも「好きにやっていく」というパターンに入り、それ以降ずっとYouTuberのように好きなことだけをして人生を生きてきたというのです。
しかし、好きなことだけで生きていくというのは、もの凄い風当たりが強いようですね。現に、Google検索で「好きなことで生きていく」と検索すると「YouTube」 「うざい」といったワードがサジェストされます。
日本人の異常なまでの「好きなことで生きていく」嫌悪
日本でうまく住んでいけなくて、外国をずいぶんうろうろしました。それでもその生き方は変えませんでした。今でも好きなことだけをして生きています。いやなこと、性格に合わないことは一切やりません。おかげで交際範囲は狭く、友だちは少ないです。
村上春樹さんは、日本で暮らしていると、多くの人に「疎まれ」「嫌われ」あるときには「憎まれ」「裏切られ」たりするので、外国に移住したんだそうです。
しかし、そんなに辛い思いをしたにも関わらず、その生き方は変えずに、「嫌なこと」「性格に合わない」ことは今でも一切やらないようです。
これを読んで、なんだか僕は日本という国は、社会学者の古市憲寿氏の言うとおり「絶望の国」だなあと思いました。そして、それと同時に、日本人の異常なまでの「好きなことで生きていく」嫌悪を感じました。
【村上春樹の回答】2.これはもう生き方の根幹に関する問題で「コツとかそういうことではない」みたいです。
これはもう生き方の根幹に関する問題であって、コツとかそういうことではないみたいです。また教えたり教えられたりできることでもないように思います。これでは、あなたの質問に対するお答えにはぜんぜんなっていないですね。でもお答えのしようがないんです、ほんとに。
そんな「好きなことで生きていく」を実践している村上春樹さんですが、46歳無職男性の方には、特にこの生き方を薦めるわけでもなく、コツとかそういうことではないと仰っています。
確かに、質問の回答にはなっていないのですが、この「コツとかそういうことではない」というのは誠実な回答だなあと思いました。なんというか無責任に「好きなことで生きていこうぜ!」ではないところに、作家さんらしい巧みな回答だなあと感じました。
【村上春樹の回答】3.あなた自身の生き方の枠組みの中で、より自分を生かせる方法を模索された方が良いかと思います。
お互いに、自分の人生に自分なりの資本を注ぎ込んでこれまでずっと生きてきたわけですし、今さら急に変更もできないですよね。あなたはあなた自身の生き方の枠組みの中で、より自分を生かせる方法を模索された方が良いかと思います。
しかし、さすが村上春樹さん。これだけでは終わりません。最後にとても素晴らしいことを46歳無職男性の方に仰っていました。
「あなたはあなた自身の生き方の枠組みの中で、より自分を生かせる方法を模索された方が良いかと思います。」
もう、ホントこれです。これ。これに尽きるかと思います。結局のところ、どう生きるかを決めるのは自分自身であって、人にとやかく言われることではありません。しかし「より自分を生かせる方法」と言うのが、ミソなんですよね。
自分を生かせる方法=好きこそものの上手なれ
よく「好きを仕事にした方がいい」と見聞きすると思うのですが、それはちょっと説明が抜けていると僕は思っています。
正確には、好きでひたすらその物事を追求していたら、気付いたら他の人よりもその物事ができるようになっていて、結果的にその物事で食べられるくらい「価値あるものになるから」だと思います。
おわりに
村上春樹さんは、その物事が「小説を書く」だったわけですよね。そして、村上春樹さんは「小説を書く」ことし続けた結果、食べられるようになり、千駄ヶ谷のカフェを友人に譲り、専業作家となり、ベストセラー作家となったわけです。
好きなことで生きていくというのは、あくまで好きなことを追求し続けた結果、それが他の人より秀でて、自分の強みになり、食べていけるようになったということに過ぎないのです。